埋もれた遺産 第4話


「見ろ」

彼はその本開き、指差した。

「これ、僕の!」
「ああ、そうだ。お前の騎士章だ」

それは、見間違えるはずはない、僕の持つ騎士章の写真だった。
剣が折れた姿ではなく、傷ひとつ無い頃の騎士章。
きっとこの騎士章にまつわるページなのだと、そこに書かれた文字を目で追ったのだが、僕は思わず顔をしかめた。

「・・・ブリタニア語・・・」

そう、ブリタニア語で書かれていたのだ。
思わずうんざりとした表情でそれを見てしまう。
うう、頭がいたい。

「そうだな?どうかしたのか?」

突然しかめっ面をし、文字を見つめている僕に、彼は首を傾げた。

「僕、ブリタニア語は・・・全然読めないんだ」

ブリタニア語に関しては万年赤点で、簡単な単語を読むのが精一杯なのだ。
そのことを正直に話すと、彼は信じられないというようにこちらを見た。
そういえば、彼はブリタニア人だから、そんな彼の本がブリタニア語なのは当然かと、いまさらながら納得する。

「お前なら、ちゃんと学べばブリタニア語はマスターできるだろう」
「う・・・」

そう言われても、ブリタニア語は暗号にしか見えないのだ。
どれだけ気合を入れて勉強しても、読めるようになる自信はない。

「・・・まあいい、簡単に説明してやろう」
「お願いします」

僕は素直に頭を下げた。

「これは、ブリタニアの皇女が、自らの専任騎士に与えた騎士章だ」
「専任騎士?」

騎士にはいろいろな種類があるのだろうか?
皇帝の円卓の騎士は有名だが、それ以外は知らない。

「専任騎士とは、皇族がただ一人だけ任命できる特別な騎士だ」
「特別な、騎士」

そんなすごい騎士のものだったのか。
レプリカだろうか?と思ったのだが、彼は本物だと言った。
そしてパラパラとページをめくり、再び示されたページには彼女が居た。
ピンク色の長い髪と特徴的な髪型、そしてあの優しい笑顔。
間違いない。

「神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。その娘である第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア。この騎士章は彼女のものだ」
「ユーフェミア・・・」

それが、彼女の名前。

「かつて日本がエリア11と呼ばれた時代に、副総督として日本に居た人物だ」
「あ、もしかしてユーフェミア皇女殿下?慈愛の姫の!?」

僕は日本史で学んだ記憶を引っ張りだし、思わず叫んだ。

「慈愛の姫?ユーフェミアがか?」

彼が眉を寄せ聞いてきたので、僕はうん。と頷いた。

「悪逆皇帝の圧政で人々が苦しんでいた時、ユーフェミア様は悪逆皇帝に真っ向から立ち向かい、日本人のために行政特区日本を設立しようとしたんだ。だけど、悪逆皇帝の罠に嵌まり、式典で暗殺されてしまった。英雄ゼロが彼女を救おうとしたらしいけど、間に合わなかったんだ」

まさか彼女があのユーフェミア皇女殿下だったなんて。
彼女は日本の歴史において、英雄ゼロに次ぐ日本の恩人として有名な人だった。

「・・・済まないが、その日本史について、詳しく教えてもらえないだろうか?」

僕の言葉に、複雑な表情を浮かべた彼がそんなことを訪ねてきたので、僕は首を傾げた。

「それはいいけど・・・君、ブリタニア人だよね?なんで知らないのさ?」

騎士章だけではなく、すでに失われたユーフェミア皇女殿下の写真さえ持っているのに彼はおかしなことを聞いてくる。
曰く、過去の物に関しての知識はあるが、歴史に関しては疎く、彼女がどのような人物なのかよく知らないのだという。日本史に関する話をしてくれれば、それを対価にするという彼の言葉に、僕は二つ返事で頷いた。
他のことならいざ知らず、名家と呼ばれる家の出である僕は、日本の歴史、特にブリタニアの圧政が行われた時代に関しては徹底的に教えこまれていたのだ。

「成る程、賢帝と呼ばれたシャルル皇帝を卑怯にも暗殺した悪逆皇帝は、植民地政策を強行、日本をエリア11とした際に妹ユーフェミアを副総督として送った。だが、ユーフェミアは慈愛の姫と呼ばれるほど心優しい姫君で、日本人を少しでも救おうと善政を布いたが、それが悪逆皇帝の逆鱗に触れ、暗殺されたと。なかなか興味深い話だな」

彼は楽しげにそう言いながら、紅茶を口にした。

「残念なのは、悪逆皇帝が当時のブリタニア皇族に関する資料を全て焼き払ったってことなんだ。そのせいで、ユーフェミア様やシャルル皇帝の写真も残っていない」
「なるほど、流石悪逆皇帝。最悪の支配者だな」
「ほんとだよ」
「面白い話を聞かせてくれた礼に、お前の問題を解決する手を教えよう」

彼は上機嫌でそういった。

「あるの?そんな手が」
「ああ。お前の話してくれた幽霊の状態。俺の知るかぎり、それは生霊だろう」
「生霊!?でも、ユーフェミア様なんだよね!?」

100年以上も前の人物が生きているはずはないよ!
その否定の言葉に、そう言う意味ではないと彼は笑った。

「スザク、お前は生まれ変わりというものを信じるか?」

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